中国は4月10日、張又侠(Zhang Youxia)・劉振立(Liu Zhenli)両氏を中央軍事委員会(CMC)から解任した。両氏は今年1月、国営メディアが「深刻な法律違反」と報じた疑惑で調査対象となっており、今回の決定はその調査結果に基づくものとみられる。張氏はCMC副主席(序列1位)として中国軍最上位の将軍の地位にあったが、1月の国防省発表により「規律と法律の重大な違反の疑い」で調査されていることが明らかになり、軍内部に衝撃が走った。
今回の解任は、習近平指導部の下で推進される大規模な反腐敗運動の一環と位置づけられる。特に張氏の失脚は、その階級の高さに加え、習主席に極めて近いとされていた経歴から、中国政治・軍事アナリストの間で驚きをもって受け止められた。国営新華社通信は10日、全国人民代表大会常務委員会の会合で両氏の解任が決定されたと報じている。
解任の経緯と背景—1月の調査発表から4月の決定まで
事態の発端は2026年1月24日にさかのぼる。国防省が突如として張氏と劉氏が「規律と法律の重大な違反の疑い」で調査対象となったことを発表した。この表現は中国の政治文脈において、汚職や職権乱用を指す婉曲表現として定着している。当時、人民解放軍機関紙は社説で、両氏が「中央軍事委員会主席の最終責任体制を著しく踏みにじり、損なった」と断罪。これは事実上、習主席への忠誠を欠いた行為を糾弾する内容であり、両氏の立場が極めて深刻であることを示していた。
それから約3カ月後、全国人民代表大会常務委員会の定例会合で両氏の解任が正式に決定された。張氏はCMC副主席、劉氏はCMC連席参謀部参謀長のポストをそれぞれ失った。劉氏の担当していた連席参謀部は、中国軍の作戦計画全体を統括する極めて重要な部署である。
中央軍事委員会とは何か—国家と党の二重構造
中央軍事委員会(CMC)は中国の最高軍事決定機関であり、国家機関としての国家中央軍事委員会と、党機関としての党中央軍事委員会の二つが存在する。しかし、アジア・ソサエティのライル・モリス氏が指摘するように、実務上は両者は同一組織として機能しており、「中国の官僚制度において同一視されている」のが実態である。今回の解任は国家中央軍事委員会のポストに関するものであるが、党のポストにも影響が及ぶ可能性が高いとみられる。
CMCは本来7名で構成されるが、今回の大量解任により、現時点で確認できるメンバーは習主席と、反腐敗工作を統括する張生民(Zhang Shengmin)氏のわずか2名のみとなった。残る5ポストが空席となる事態は極めて異例であり、中国軍の指揮系統に一時的な混乱を招く可能性も指摘されている。
張又侠氏の急落—「習主席の右腕」とされた男の失脚
張氏の失脚が特に注目されるのは、その政治的経歴にある。張氏は習主席の腹心の一人と広く認識され、軍内で急速に昇進を遂げてきた。近年の反腐敗運動においても、他の高官の追及を主導する立場にあった。そのような人物が自ら標的となったことは、今回の粛清が単なる汚職摘発を超えた、より広範な権力再編の一環である可能性を示唆している。
公式な説明では、両氏の具体的な違反内容は明らかにされていない。行方も不明であり、通常の調査手続きを超えた非公開の処分が下された可能性がある。中国メディアは一貫して詳細を報じておらず、情報統制の厳しさを物語っている。
今後の展望—軍内権力構造の再編へ
今回の解任は、習体制下での軍内粛清が新たな段階に入ったことを示す。特に張氏のような高級将軍の排除は、軍内部の権力バランスを大きく変える。空席となったCMCのポストには、習主席の意向に忠実な人物が起用されるとみられ、軍の党への従属が一層強化される方向だ。
一方で、今回の決定は中国の対外政策にも影響を及ぼす可能性がある。CMCは台湾海峡や南シナ海の有事対応を含む軍事戦略の最高決定機関であり、そのメンバーが不在の状態が続けば、意思決定プロセスに遅延が生じる懸念がある。ただし、習主席が議長として最終的な指揮権を掌握している以上、大きな混乱は回避されるだろうという見方も強い。
劉氏の解任に関しては、連席参謀部という実務部門のトップが突然交代することによる作戦計画への影響が注目される。中国軍の近代化と実戦訓練の強化が進む中でのこの異動は、現場レベルにも少なからぬ波紋を広げている。
両氏の「その後の消息」や具体的な罪状に関する公式発表は現時点ではなく、今後の追加情報が待たれる。しかし、この出来事が中国軍の指揮系統に対する習主席の掌握をさらに強固にする結果となることは間違いない。