かつてBioWareで『ドラゴンエイジ』シリーズの開発を率いたベテラン開発者、Mark Darrah氏が、同シリーズ初期3作品のリマスターが実現する可能性は極めて低いとの見解を明らかにした。長年のスタッフ退職や複数回にわたるレイオフの影響で、スタジオ内に初期作品で採用されていた内製ゲームエンジンを扱える人材が、基本的に残っていないというのがその理由だ。
Mark Darrah氏が語るリマスター不可能の核心
Mark Darrah氏は23年間にわたりBioWareに在籍し、プログラマー、ディレクター、プロデューサーを歴任した重鎮だ。特に『ドラゴンエイジ』シリーズ初期3作品ではエグゼクティブプロデューサーを務め、その開発工程を熟知している。同氏が海外メディアFRVRのインタビューで語った内容は、技術的な障壁が想像以上に深刻であることを示している。
失われた内製エンジンの知見
BioWareは長年にわたり、自社開発のゲームエンジンを進化させてきた。1998年の『バルダーズ・ゲート』で採用したInfinity Engineにはじまり、その後継となるAurora Engineを開発。Aurora Engineは改良を重ねられ、『ドラゴンエイジ:オリジンズ』で採用されたEclipse Engine、さらに『ドラゴンエイジII』向けのLycium Engineへと発展した。しかし、2008年にElectronic Arts(EA)の傘下に入った後、BioWareはDICEが開発したFrostbiteエンジンへと移行。『ドラゴンエイジ:インクイジション』はFrostbite 3で開発されている。この技術基盤の移行により、旧来の内製エンジンに関するノウハウは散逸してしまったのだ。
なぜUnreal Engine作品と異なるのか
比較対象としてしばしば挙がるのが、同じBioWareの看板シリーズ『Mass Effect』だ。同シリーズ初期3作品は、Unreal Engine 3を採用していたため、2021年に『Mass Effect Legendary Edition』として美しいリマスターを果たしている。Darrah氏はこの違いを明確に指摘する。Unreal Engineのような汎用エンジンであれば、外部スタジオと協力してリマスター作業を進めることが可能だ。しかし、内製エンジンで開発された『ドラゴンエイジ』初期作品については、そのエンジンを理解し、協力を仰げる外部の専門スタジオが存在しないというのが現実だ。
リマスター実現には「新チーム」が必要
Darrah氏は、もしリマスターを強行するならば、BioWare内にまったく新しいチームを立ち上げ、ゼロから知識を再構築する必要があると述べている。しかし、そのための人材を確保すれば、他の重要なプロジェクトにリソースを割けなくなる。同氏はこのジレンマを前に、リマスターの実現は極めて困難だと結論づけている。
過去の構想と現実のギャップ
実はDarrah氏自身、在籍中に「Champion’s Edition」と題した初期3作品のリマスターを構想していたという。特に『ドラゴンエイジ:オリジンズ』については、発売当時でさえ「見栄えの良いゲームではなかった」と振り返り、改良の余地が多分にあると語る。昨今の『バルダーズ・ゲート3』的大ヒットが証明するファンタジーRPG市場の盛り上がりを踏まえれば、マーケット的にはヒットの可能性は十分にある。しかし、技術的基盤が整わなければ、どんなに魅力的な企画も絵に描いた餅に終わる。
スタジオの現状と『ドラゴンエイジ』の未来
状況をさらに複雑にしているのが、BioWareを取り巻く人員体制の変動だ。『Anthem』リリース後、Darrah氏を含む多くのベテランスタッフが退職。2023年には約50名のレイオフが実施され、その中には『ドラゴンエイジ』シリーズに長年携わってきた開発者も含まれていた。さらに、シリーズ最新作『ドラゴンエイジ:ヴェイルの守護者』の売上はEAの想定を下回り、スタジオは現在『Mass Effect』新作の開発に注力する方針を打ち出している。
内製エンジンの知識が失われ、シリーズの未来も不透明な中、『ドラゴンエイジ』初期作品のリマスターは、技術的にも組織的にも多くのハードルを抱えている。Darrah氏の証言は、過去の名作を現代に蘇らせることの難しさを、業界関係者に改めて突きつける形となった。旧作の輝きを再び見たいと願うファンにとっては残念な知らせだが、それがスタジオの現実なのである。