イーサリアムの中長期的なガス代のあり方が、およそ5年ぶりに大きく見直されることになりました。次期アップグレード「グラムスターダム(Glamsterdam)」に、ガス代のコスト体系を根本から組み替える2つの重要な提案が盛り込まれていることが、新たに明らかになりました。この変更は、今後イーサリアムのネットワークを利用するすべてのユーザー、そして開発者やバリデーターにまで幅広い影響を及ぼすとみられています。
グラムスターダムとは?——ガス代見直しの背景
「グラムスターダム(Glamsterdam)」は、イーサリアムのメインネットに適用される次期大型アップグレードです。今回のアップグレードでは、ネットワークのパフォーマンス改善とスケーラビリティ向上が主な目的とされていますが、その中核に位置づけられるのがガス代(トランザクション手数料)の再設計です。
イーサリアムのガス代は、ロンドンアップグレードで導入されたEIP-1559によってベースフィーとチップの二層構造が確立されてから、大きな変更が行われていませんでした。それから約5年、DeFiやNFT、レイヤー2ソリューションの爆発的な普及とともに、ネットワークの状態は大きく変化しています。特に、アカウント作成やストレージ利用といった「状態(ステート)の作成」にかかるコストが、実際の計算負荷と乖離しているという問題が長らく指摘されてきました。
EIP-8037とは?——状態作成コストの再定義
今回の見直しの最前線に立つのがEIP-8037です。この提案は、新しいアカウント、ストレージ、コントラクトコードといった「状態(ステート)」の作成コストを、現行のモデルから抜本的に再定義するものです。
これまで、オンチェーン上に新しいデータを書き込む際のガス代は、比較的均一に設定されていました。しかし、イーサリアムの状態は年々増大の一途をたどっており、フルノードを運用するためのハードウェア要件が上昇し続けています。EIP-8037の狙いは、状態増加のコストをより正確に反映させることで、無駄なデータ保存を抑制し、ネットワーク全体の健全性を高める点にあります。
具体的には、契約コードのデプロイやストレージの拡張といった行為に対して、これまでよりも高いガス代が課せられる可能性があります。これにより、検証ノードの負荷が軽減され、長期的な分散性の維持に寄与すると期待されています。
EIP-8037で影響を受けるのは誰か?
この変更の影響を最も直接的に受けるのは、頻繁にスマートコントラクトをデプロイするdApp開発者です。これまでよりも高額な手数料を支払わなければならなくなるため、コードの最適化や、レイヤー2への移行が一層加速する可能性があります。一方、一般ユーザーが日常的に行うETHの送金や、DEXでのスワップにおいては、直接的な影響は限定的であるとみられています。
もう一つの重要提案——ガス代構造の二段階改革
EIP-8037と同時に提案されているもう一つのEIPも、ガス代のパラダイムを変える可能性を秘めています。この提案は、トランザクション実行時の「計算処理」と「データストレージ」という、性質の異なる2つのリソースに対して、それぞれ独立したガス価格を設定するというものです。
現在のイーサリアムでは、計算とストレージのコストが混在しており、そのバランスが必ずしも最適とは言えませんでした。この提案が実装されれば、ストレージを大量に消費する処理には高いコストが、単純な計算処理には低いコストが割り当てられることになります。
この二段階改革の狙いは、リソースの適正価格化にあります。結果として、ストレージの肥大化を招く不要なNFTミントやスパムトランザクションの抑止効果が期待できる一方、単純なロジック処理を多用するDeFiプロトコルなどは、相対的に手数料が低下する可能性も指摘されています。
5年ぶりの見直しがもたらす市場とエコシステムへの影響
イーサリアムのガス代改革は、単なる技術アップデートにとどまらず、暗号資産市場全体の動向にも影響を及ぼす可能性があります。過去の事例を見ても、ガス代の変動はレイヤー2ソリューションの需要や、ステーキングの収益率、さらにはETHの価格変動にまで連動してきました。
今回の見直しは、特に「状態の肥大化」というイーサリアムが抱える構造的な課題に対する、本格的な処方箋といえます。この変更により、イーサリアムのL1(レイヤー1)自体の効率性が高まれば、ArbitrumやOptimismといったL2ソリューションへの依存度が相対的に減少する、あるいは逆にL2の価値がより際立つといったシナリオも考えられます。
開発者コミュニティの反応
すでにコア開発者の間では、この変更に対する議論が活発化しています。肯定的な意見としては、長期的なネットワークの持続可能性を高めるための「必要な痛み」であるという声が多数を占めています。一方で、新興プロジェクトにとっては参入障壁が高まるという懸念もあり、今後のガバナンスプロセスにおいて、具体的なガス代の数値や移行期間について、さらに詳細な調整が行われるとみられます。
いつ実施されるのか?——今後のスケジュール
グラムスターダムのメインネット実装は、2025年の後半から2026年にかけてと予想されています。EIP-8037と関連提案は、このアップグレードの一部としてテストネットでの検証を経た後、本番環境に適用される見通しです。テストネットでの挙動や、コミュニティによる最終投票の結果次第では、内容が一部修正される可能性も排除できません。
現時点では、「EIP-8037」と「ガス代の二段階価格設定」という2つの柱が、グラムスターダムにおけるガス代見直しの命運を握っていると言えるでしょう。この5年ぶりの大改革が、イーサリアムの新たな進化のステージを拓くのか、それとも予期せぬ摩擦を生むのか。今後の議論の行方から目が離せません。