フィリピン上院は、国家副主席サラ・ドゥテルテ氏の弾劾裁判において、有罪判決に必要な投票数の要件を引き下げる決議を可決した。これにより、同氏が失職し、公職追放されるリスクは急速に高まっている。
これまで憲法では、上院議員24人全員の3分の2(16人)の賛成が有罪判決に必要と解釈されてきた。しかし、水曜日に可決された動議により、この要件は「その時点で議決に参加している議員の3分の2」に緩和された。弾劾裁判は現在進行中であり、この決定は今後の審理の行方を大きく左右するものとなる。
サラ・ドゥテルテ氏は、フェルディナンド・マルコス大統領夫妻に対する殺害予告、公金不正使用、説明できない富の蓄積などの疑惑で告発されているが、同氏はこれらを全面的に否認している。
ドゥテルテ氏に追い風か? 相次ぐ盟友議員の窮地
この判決要件の変更がドゥテルテ氏にとって極めて不利に働く背景には、彼女に同情的な上院議員の多くが、司法の窮地に立たされている現状がある。
既にドゥテルテ氏に近いとされる議員のうち、ロダンテ・マルコレタ議員とジンゴイ・エストラダ議員の2名が汚職容疑で逮捕されている。さらに、盟友であるロナルド・デラ・ロサ議員は国際逮捕状を回避するため潜伏中であり、ロレン・レガルダ議員はエネルギー契約をめぐる調査を受ける中で長期の医務休暇を取得している。いずれの議員も、自身に対する疑惑や逮捕については否認の立場を取っている。
この状況について、ベニグノ・アキノ3世元大統領の政治顧問を務めたロナルド・ラマス氏は、「マルコス政権は、ドゥテルテ氏との生存をかけた政治闘争に勝利するため、反対派議員に対する訴追を強行している」と分析。この流れが継続すれば、ドゥテルテ氏の有罪判決の可能性はさらに高まると指摘している。
マルコス政権による「選択的正義」との批判も
一連の動きに対し、上院少数党院内総務のアラン・カイエタノ議員は、マルコス政権が「選択的な正義」を追求していると非難した。一方、マルコス政権側は、議員らに対する案件は証拠に基づくものであり、法廷で争う機会は十分にあると反論している。
これらの政治的な駆け引きの背後には、2028年の大統領選挙を巡る権力闘争が深く関わっている。現在、次期大統領選の最有力候補と目されるサラ・ドゥテルテ氏に対し、憲法上の任期制限で再選が不可能なマルコス大統領は、同氏の勝利が自陣営への深刻な報復を招くことを強く警戒している。
この政治的断絶は、東南アジアの重要国であるフィリピンの経済成長鈍化やインフレ対策にも影を落としており、国政運営の複雑さを増している。
弾劾裁判の焦点:ジムバッグに積まれた200万ドル
裁判では、2024年に録音された映像が繰り返し証拠として提出されている。その中で、興奮したドゥテルテ氏は自らの生命の危険を訴え、自身が死亡した場合に備えてマルコス大統領一家の殺害を手配していたと述べている。
さらに、証人の証言によれば、ドゥテルテ氏の側近らは1回あたり約200万ドル(約3億円)もの大金を、ジムバッグに詰めて異常な額の現金を引き出していたという。また、監視活動用の予算を偽名で受け取り、その資金をクリスマスパーティーに流用した疑惑も浮上している。
これに対し、ドゥテルテ氏の弁護団は、同氏がマルコス氏との確執以降、脅迫や嫌がらせを受け続けてきたと反論。資金使途に関しても不正は一切なかったと主張している。ドゥテルテ氏自身は、裁判を「血の海と殴打」と表現し、屈しない姿勢を崩していない。
今後の展望:最高裁への提訴も視野
弁護団は、今回の上院の議決資格に関する決定について、最高裁判所への提訴の可能性を示唆している。ドゥテルテ氏の弁護士マイケル・ポア氏は、「依頼人の権利が侵害されていると判断した場合、この問題を最高裁に持ち上げる可能性を排除しない」と述べており、今後の法廷闘争は長期化する様相を見せている。
少なくともあと3人のドゥテルテ氏側近議員が、同様の法的問題を抱えているとされる。弾劾裁判は既に10週間が経過し、12月まで続く可能性もある。政治の季節を迎えたフィリピンにおいて、この裁判の行方は、今後の国家の進路を決定的に左右する試金石となるだろう。