全国の保育園などの待機児童数が、2025年4月1日時点で前年から181人増加し、2435人となったことが、こども家庭庁の調査で明らかになった。待機児童数が前年を上回るのは9年ぶりで、東京都内で待機児童が3倍以上に急増したことが全体を押し上げた。ピーク時に2万6081人を数えた2017年以降、一貫して減少傾向が続いてきただけに、今回の増加は少子化対策や子育て支援政策の在り方に一石を投じる結果となった。
東京都の待機児童は、2024年の339人から2025年は1113人へと、実に3.3倍に拡大した。こども家庭庁は、この急増の背景として、2025年度から東京都が第1子を対象に開始した保育料無償化政策に伴う需要の集中と、18歳以下の子どもへの給付金支給などにより子育て世帯が増加したことを主要因に挙げている。待機児童問題は、長らく地方圏よりも都市部で深刻であるとされてきたが、今回のデータは政策変更が需給バランスに直結する危険性を如実に示している。
待機児童の実態——都市部集中と低年齢化の二重構造
待機児童の分布を地域別に見ると、東京圏や関西圏といった大都市圏、および政令指定都市に全体の約75.5%が集中している。特に東京都内では、世田谷区が166人で全国最多となり、足立区(106人)、北区(103人)も全国トップ10に入る深刻な状況だ。一方で、全国の市区町村の89.1%にあたる1552自治体では待機児童がゼロであり、地域間格差が極めて大きいことも浮き彫りとなった。
年齢別に見ると、待機児童の86.9%が1歳児または2歳児である。これは、保育所の利用申請が集中する一方で、0歳児に比べて保育士一人当たりの受け入れ可能人数に限りがある年齢層であり、特に都市部での受け皿不足が顕在化している。低年齢児の保育需要が高まっているにもかかわらず、それに対応する施設整備が追いついていないのが実態だ。
保育施設の総容量と利用状況——数字が示す需給のミスマッチ
全国の保育所、認定こども園、小規模保育事業所などの総受入可能数は、2025年4月1日時点で301万6417人。実際に施設を利用している子どもは264万6756人で、全国平均の施設稼働率は87.7%にとどまり、減少傾向にある。一見すると、全国的な受入余力は存在するように見える。しかし、この平均値は待機児童がゼロの自治体が多いことを反映したものであり、実際に需要が集中する都市部の稼働率は90.9%と高い水準にある。
さらに、企業が主に従業員向けに設置する企業主導型保育事業を含めた総保育容量は約318万9千人分で、前年から1万5千人分減少した。申込者数は約273万人に上っており、都市部では供給不足が続いていることが確認できる。施設数の増加が見込めない中で、いかにして需要の高い地域にリソースを再配分するかが課題となる。
東京の保育無償化が引き起こした「待機児童の再燃」
今回の増加で特に注目すべきは、東京都が2025年度から実施した第1子保育料無償化の影響である。これまで保育料の無償化は、2019年10月から始まった3〜5歳児クラス全額無償化や、住民税非課税世帯の0〜2歳児を対象とする制度が段階的に進められてきた。しかし、東京都は独自の財源を活用し、第1子の0〜2歳児クラスについても利用料を無償とする措置を打ち出した。
この政策により、それまで保育所の利用を控えていた世帯や、認可外保育施設を利用していた世帯が新たに認可保育所の利用申請を行うようになり、結果として待機児童が急増したとみられる。政策の狙いである子育て世帯の経済的負担軽減という点では評価できる一方で、受け入れ施設の整備が追いつかないまま需要だけが喚起されたことで、短期的な混乱を招いた形だ。
待機児童とは——定義と数え方の変遷
待機児童とは、保育所などの利用を希望しながらも、入所できずに待機状態にある子どもを指す。ただし、自治体によって集計基準が異なる点には注意が必要だ。こども家庭庁の定義では、保育所などを利用していない子どものうち、自治体が入所の必要性を認めながらも入所できていない子どもを「待機児童」として集計している。一方で、特定の保育所を希望して入所を辞退したケースや、育休延長などで保留しているケースは含まれない。このため、実態よりも少なく見える傾向がある。
2017年のピーク時には2万6081人だった待機児童は、政府の「子育て安心プラン」などによる保育の受け皿拡大により減少を続け、2024年には2254人と過去最少を記録していた。しかし、今回の9年ぶりの増加によって、政策の効果が頭打ちになっている可能性が指摘されている。
今後の展望——供給拡大か、需要の平準化か
政府はこれまで、保育所の整備促進や保育士の処遇改善を通じて待機児童解消を目指してきた。しかし、都市部では用地の確保が難しく、新たな施設整備には限界がある。また、保育士の人手不足も深刻で、保育の質を維持しながら施設数を増やすことは容易ではない。
今後の課題として、まずは保育需要の多い都市部における認定こども園や小規模保育施設の戦略的配置が挙げられる。同時に、企業主導型保育事業の活用や、保育士の労働環境改善による定着率向上も急務だ。さらに、東京都の事例が示すように、保育料軽減策を実施する際には、事前の需給予測と施設整備の計画をセットで進めることが不可欠となる。
待機児童問題は、単なる施設数の問題ではなく、地域の実情に応じたきめ細かな政策設計と、制度変更に伴う需要変動を織り込んだ長期的な計画が求められる。今回の9年ぶりの増加は、その重要な警鐘として受け止めるべきだろう。