暗号資産(仮想通貨)デリバティブ取引所BitMEXの共同創業者であり、米ヘッジファンドMaelstromの最高投資責任者(CIO)を務めるアーサー・ヘイズ氏は3日、自身のニュースレター「CryptoTraderDigest」で新エッセイ「Atención」を公開した。同氏は、ユーロ・円(EUR/JPY)が現在の185円前後から、2026年6月までに140円以下へと急落するとの見解を示し、その背景にある欧州金融システムの不安定性と、それに伴う米連邦準備制度理事会(FRB)の資金供給拡大が、ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨市場にとって強力な追い風になると主張している。
ヘイズ氏は、このユーロ安・円高シナリオの最大の引き金として、フランスの銀行システムに対する市場不信を挙げる。フランスの大手金融機関は、ソブリン債(国債)の保有比率が極めて高く、ユーロ圏の金利上昇局面で含み損が膨らんでいる。同氏の分析では、特定の仏銀行が資本不足に陥る可能性があり、それが欧州全域の銀行間市場のストレスに直結するリスクをはらんでいると指摘。この構図は、2008年のリーマン・ショックや、2023年の米地域銀行(SVB)破綻と構造的に類似しており、システムショックが伝播する前に、FRBがドル流動性を緊急供給するシナリオが浮上すると予測する。
「FRBは、欧州の銀行危機が米国金融市場に波及するのを防ぐため、中央銀行間のスワップラインを通じて大規模なドル資金を供給せざるを得なくなるだろう」とヘイズ氏は論じる。同氏の見立てでは、このような金融緩和的な措置は、結果的に米ドルの価値を希薄化し、実物資産や代替通貨としての仮想通貨の需要を押し上げる。特に、イーサリアム(ETH)については、独自の価格目標として1万ドルを突破する可能性にも言及。これは、同氏が従来から主張してきた「中央銀行の緩和政策とビットコイン価格の相関関係」を、より具体的な数値で裏付けた形だ。
ユーロ円140円割れが示すマクロ経済の転換点
現在、1ユーロ=185円前後で取引されているユーロ円が、来年6月までに140円を下回るという予測は、ドル円レートの想定にも依存するが、単純計算で約25%の円高方向への変動を意味する。これは、単なる為替レートの調整ではなく、長期的な資金フローの構造変化を反映したものと考えられる。これまで円安の主因とされてきた日米金利差の縮小観測に加え、ヘイズ氏の指摘する欧州発の信用収縮リスクが重なれば、急速な円高が進行する可能性は否定できない。
特に注目すべきは、ヘイズ氏がこのユーロ安を「FRBによる間接的な資金供給のきっかけ」と位置付けている点だ。中央銀行間スワップ協定は、2008年や2020年3月のパンデミック時にも発動された「最後の貸し手」機能であり、この発動自体が市場に「システムリスクの顕在化」を印象付ける。ヘイズ氏の議論では、こうした局面では伝統的な安全資産である米国債よりも、供給量が厳格に制限されたビットコインの方に資金が流れるという。
仮想通貨市場への具体的な影響——ETH1万ドルは非現実的か
ヘイズ氏が提示したイーサリアムの1万ドル目標は、現行の約3,500ドル(執筆時点)から約3倍の上昇を意味する。一見、強気すぎる目標に映るが、同氏はこの見立てをマクロ経済の枠組みから導き出している。すなわち、FRBがバランスシートを拡大させれば、ドル建ての資産価格全般が押し上げられる効果(リフレーション効果)が仮想通貨市場にも波及し、ETHはその中で最も高いベータ値(市場感応度)を持つ資産の一つであると位置付ける。
加えて、同氏はイーサリアムのエコシステムの進化にも触れている。レイヤー2ソリューションの普及によるトランザクションコストの低減、ステーキング需要の拡大による売り圧力の減少、そして現物ETFへの継続的な資金流入が、需給構造を改善していると評価。これにより、仮にマクロ環境が想定通りに動かなくても、ある程度の価格下支え要因が存在するとの見方を示した。
投資家が取るべき戦略——ヘイズ氏のポートフォリオ構想
ヘイズ氏は、今回のエッセイで具体的なポートフォリオの戦略も示唆している。彼の基本的なスタンスは、現金や伝統的な国債を長期で保有するよりも、ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨、そしてゴールド(金)へのエクスポージャーを増やすべきだというものだ。特に、ユーロ安が進行する局面では、ユーロ建ての資産を避け、ドル建てないしは非国家系の資産でポジションを組むことが有効であると述べている。
「投資家は、中央銀行が常に市場を支えるという前提に依存したアセットアロケーションを再考する必要がある」とヘイズ氏は警鐘を鳴らす。真のリスクは、インフレや暴落そのものではなく、政策対応の副作用として生まれる通貨の信認低下にあると指摘。こうした観点から、同氏が経営するMaelstromがどのような具体的なポジションを取っているかは明かされていないが、少なくともこの見通しに沿ったロングポジションを維持している可能性が高いと市場では推測されている。
ヘイズ氏の予測が現実のものとなるかどうかは、欧州金融規制当局の対応と、FRBの実際の政策運営に依存する部分が大きい。しかし、同氏が過去に示してきた市場分析——例えば2020年のビットコイン大暴落後の急回復予測や、2023年の米国銀行危機と仮想通貨価格の相関分析——は一定の精度を示してきたことも事実だ。ユーロ円140円割れというシナリオは、為替市場のみならず、グローバルなリスク資産の配分を根本から見直す契機となる可能性を秘めている。