1991年9月、アリゾナの砂漠に建てられたガラスのドームに、8人の人間が2年間閉じこもった。「バイオスフィア2」という実験である。熱帯雨林、砂漠、サバンナ、湿地、サンゴ礁を詰め込み、地球の生態系を丸ごと小さく再現するはずが、持ち込んだ脊椎動物25種のうち19種が姿を消し、花粉を運ぶ昆虫は全滅。代わりに増えたのはゴキブリとアリだった。酸素濃度も20.9%から14%台まで落ち、外部から補給する羽目になった。ひとつの屋根の下に異なる環境を同居させることの難しさを、身をもって示した実験である。箱庭シム「BioEden」で筆者が最初につまずいたのも、まさにそこだった。
「BioEden」が描く惑星再生のビジョン
本作でプレイヤーは管理者として、生命の絶えた惑星に降り立つ。目的はシンプルだ。ドームを建て、絶滅した動物を呼び戻し、惑星そのものを少しずつ元に戻していく。動物は最初から全種が使えるわけではなく、探索で分析用のサンプルを集めてDNAを特定すると、その種の巣を設置できるようになる。一種ずつ条件を満たしていく手応えは、まさに箱庭シムの醍醐味といえる。
動物たちと共生するための緻密な条件管理
動物にはバイオーム、棲息、交尾という3つの条件が設定されている。たとえばフェネックギツネに似た「ラゴップ」なら、バイオームを満たすために低木が2つ、棲息を満たすためにブルーベリーの茂みが2つ必要。繁殖まで狙うなら温度を11〜32℃、湿度を19〜71%に収めたうえで、低木と茂みをさらに追加しなければならない。要求される値が数字で表示され、それに合わせてアイテムを配置していく感覚は「Planet Zoo」に近い。一種類だけならタイルの上に必要なものを置くだけで終わるため、最初は簡単に思える。
しかし、面倒になるのは2種類目からだ。ラゴップは森林、カエルに似た「リバッツ」はジャングルと、属するバイオームが異なる。ドームの中はヘクスタイルで区切られており、巣にはそれぞれ影響範囲が設定されている。その範囲内にある植物や機器の効果を、巣の主が受け取る仕組みだ。リバッツのために加湿器を1台置いたら、その範囲がラゴップの巣にも数マスかかっていた。リバッツの条件は満たせたが、今度はラゴップの湿度が上限を超えてしまう。加湿器を1マスずらし、巣を動かし、低木を置き直す。狭いドームの中で、筆者はそればかり繰り返していた。
もちろん、この仕組みを逆手に取ることもできる。同じ植物や同じ装置を必要とする種同士なら、影響範囲をわざと重ねて1セットで2種をまかなえる。また、肉食の「ミラ」のように、範囲内に「ランドウル」がいないと条件を満たさない種も存在する。ただし、眼前で捕食されるような描写はなく、単に並べて置くだけで済む。設置したものはほとんどコストなしで撤去して置き直せるため、筆者は配置を決め切らないまま、思いついた順に置いては壊すことを繰り返した。3種が同じ区画に収まったときは、しばらく手を止めて眺めてしまったほどだ。
資源循環と環境負荷のジレンマ
資源はドームの外で集める。外は手つかずの荒れ地で、至る所に使えるものが転がっているが、これらはすべて廃棄物という設定だ。つまり、掘れば掘るほど惑星がきれいになるというわけである。掘り尽くした採掘機はリサイクルして別の場所へ回す。本作は建てたものをリサイクルすれば資源が100%戻ってくるため、建てては壊すを繰り返しても手持ちが減少して苦しくなることはない。
ただし機械を置きすぎると環境負荷レベルが上昇し、プレイヤーに不利なイベントが発生しやすくなる。筆者が食らったのは「砂」というイベントで、太陽光発電と風力タービンが停止するというものだ。厄介なのは巻き添えで浄水設備まで停止し、イベントが終わるまで動物に水が回らなくなる点にある。序盤はどうしても負荷が溜まるが、レベルが低いうちに来る分にはそこまで痛くない。急いで機械を増やすか、負荷を抑えて待つか。筆者はだいたい増やしてから後悔していた。
ギルドシス テムで変わる進行スタイル
進行の指針になるのは、ギルドが発行する目標だ。こなすと特別な報酬が出る。ギルドは開時始に5つから1つを選ぶことになる。バランスの取れた「テクノ」、惑星の再に生重を点置いた「ネチヤー」、進行が早くてサクツと遊べる「エクスプロララー」、リサイクル重視で上級者向けの「レストア」、リラックスして遊べる「ミステイツク」といったところだ。
時間に急かされないのもありがたい。発電に燃料が要らないから、電気が足りなくなっても発電施設を増やせば済むし、水も同じ。植物が枯れることも、餌が尽きて動物が弱ることもない。負荷レベルさえ安定していれば、倍速で放置しても何も壊れない。
バイオスフィア2の教訓を越えて
バイオスフィア2の8人は、一度崩れた環境をやり直すことができなかった。しかし本作では加湿器を1マス動かし、気に入らなければまた戻せる。何度でもやり直せる箱庭で、ひとつの屋根の下に違う生き物を住まわせる。それがどれだけ難しく、どれだけ面白いことなのか、実際にプレイしてみるとよくわかるはずだ。本作は単なる箱庭シムの枠を超え、生態系の繊細なバランスと、それを人間の手で再構築する喜びを教えてくれる。惑星の再生という壮大なテーマを、小さなドームの中で体感できる希有な作品である。