OpenAIは6月に初公開した自社設計のAIチップ「Jalapeño」の初期ベンチマーク結果を発表し、Nvidiaの最先端スーパーチップと比較して、応答速度(レイテンシ)で最大1.7倍以上、電力効率では最大1.9倍の性能向上を達成したと明らかにした。同社は2025年末までにチップの小規模な導入を開始し、2027年にかけて本格的な量産体制へと移行する計画だ。
Jalapeñoが実現した「レイテンシとスループットの両立」
OpenAIのハードウェア担当バイスプレジデントであるRichard Ho氏は、報道関係者向けの説明会で、Jalapeñoが「レイテンシの低さとスループットの高さという、これまでトレードオフの関係にあった二つの要件を高い水準で両立した」と強調した。AI推論(トレーニング済みモデルを用いてタスクを実行するプロセス)において、この二つの指標は一般的に相反するものだが、Jalapeñoはその両方を改善した点が最大の特徴だ。
同チップは、Broadcomとの協業により開発された特定用途向け集積回路(ASIC)であり、AIエージェントの実行や複雑な推論処理といった推論ワークロードに特化している。汎用的なGPUとは異なり、特定の計算処理を極限まで最適化することで、効率と速度を追求している。
ベンチマーク結果:Nvidia GB200/GB300超えの実力
性能測定には、AIシステムの推論処理能力を評価するベンチマークプラットフォーム「InferenceX」が使用された。比較対象には、当時最高クラスの成績を記録していたNvidiaのGB200およびGB300スーパーチップが選ばれた。
テストは3種類の大規模言語モデル(GPT-OSS 120B、DeepSeek R1、Kimi K2.5 1T)を用いて実施。その結果、Jalapeñoは以下の性能を記録した。
- 電力効率(ワット当たりのAI処理性能):比較対象に対して1.5倍から1.9倍向上
- エンドツーエンドのレイテンシ:比較対象に対して1.7倍から3.6倍低減
Ho氏は、このレイテンシ低減により「ユーザーはより高速な応答を得られ、エージェントはよりリアルタイムに近い動作が可能になり、需要が高まる中でも安定したアクセスを提供できる」と説明する。特に動的な対話や複雑な指示をリアルタイムで処理するシナリオにおいて、この差はユーザー体験に直結する要素だ。
Jalapeño投入計画と戦略
OpenAIは2025年末までにJalapeñoを「少量」導入し、その後2026年、そして2027年にかけて段階的に投入量を増やしていく方針だ。ただし、具体的なチップの投入数量については現時点で明らかにされていない。
注目すべきは、このJalapeñoがNvidia製チップを完全に代替するものではないという点だ。Ho氏は「当社の計算戦略には、Nvidiaのような非常に優れたパートナーが含まれている」と述べ、既存のGPUとの併用を前提としたハイブリッド戦略を明確にした。OpenAIは今後もJalapeñoの第二世代、第三世代の開発を継続するとしている。
AI半導体市場では、Nvidiaが圧倒的なシェアを誇る一方、各社が自社のワークロードに最適化したカスタムチップの開発を進めている。OpenAIによるJalapeñoの投入は、外部チップへの依存度を低減しつつ、自社のサービスに特化した計算資源を確保するという、戦略的な一手と位置づけられる。その真価は、2027年以降の本格的な運用フェーズで問われることになる。