働き方改革に逆行か、残業上限45時間の一律指導廃止

厚労省が残業上限45時間の一律指導を廃止。働き方改革に逆行か、その影響を多角的に分析する。

投稿者 central
一律指導廃止の背景には人手不足と経済成長のジレンマがある。
ハイライト
  • 厚労省は月45時間の残業上限指導を廃止し、代わりに健康確保措置を強化する方針だ。
  • 高市首相は成長重視の観点から残業規制緩和を模索してきたとされる。
  • 労働者は自己防衛が必要で、過労死ライン超えの残業には外部相談窓口に連絡すべきだ。

厚生労働省は、これまで全ての企業に対して一律に指導してきた「時間外労働の上限を月45時間とする」という基準を、今週火曜日から廃止する方針を正式に発表した。企業側から「働き方の柔軟性を高めてほしい」という要望が相次いだことを受けた措置だが、この決定は「働き方改革」の流れに逆行するものではないのか――。日本中から疑問の声が上がっている。

この動きの背景には、人手不足の深刻化と経済成長の促進という、政府が直面する二つの大きな課題がある。特に注目されるのは、自ら「働け、働け、働け、働け、働け」と掲げ、睡眠時間が「ゼロから3時間」と発言して批判を浴びた高市早苗首相の存在だ。首相は、成長重視の観点から残業規制の緩和を模索してきたとされる。

本稿では、この方針転換が持つ意味を、働き方改革の本質や労働市場への影響、そして国際的な労働基準との比較も交えながら、多角的に分析する。

月45時間上限の一律指導、なぜ廃止されるのか

これまで厚労省は、労使間で36協定を結ぶ際の行政指導として、特別な事情がない限り「月45時間」を超える残業を認めないよう、全国の労働基準監督署を通じて徹底してきた。この基準は、過労死ラインとされる月80時間を大きく下回る水準であり、労働者の健康を守る上で一定の役割を果たしてきた。

しかし、2024年以降、経済団体や産業界からは「一律の規制がイノベーションや機動的な事業運営を阻害している」「IT業界やスタートアップなど、時間と成果の関係が従来とは異なる業態にそぐわない」といった声が強まっていた。今回の決定は、こうしたロビー活動の結果と見られる。

厚労省は、「一律指導を廃止する代わりに、労働者の健康確保措置をより厳格化する」と説明している。具体的には、長時間労働者への医師による面接指導の徹底や、勤務間インターバル制度の導入促進などを強化する方針だ。

「働き方改革」の本質が問われる転換点

2019年に施行された働き方改革関連法の最大の成果は、罰則付きの残業上限規制を大企業に課したことにある。これにより、日本社会はようやく「長時間労働が美徳」という文化から脱却し始めたかに見えた。

しかし、今回の「一律指導の廃止」は、法規制の枠組みこそ維持するものの、行政の運用実務を後退させるものだ。実質的には「上限規制の骨抜き」につながる恐れが指摘されている。

ある労働問題に詳しい弁護士は、この変更について「企業が『45時間以内』という明確な目標を失うことで、結果的に残業時間が増加する企業が続出する可能性がある」と警鐘を鳴らす。特に、中小企業においては、労使交渉の場で経営側が圧倒的に有利な立場にあるため、歯止めが効かなくなるリスクが高い。

高市首相の「働け働け」路線と矛盾する政策?

今回の一連の動きを象徴するのが、高市首相のスタンスだ。首相は2025年10月の衆院選後の演説で、連呼した「働け」という言葉が翌月の「今年の流行語大賞」トップ10に選出されるなど、大きな話題を呼んだ。

さらに、自らの睡眠時間が「ゼロから3時間」であることを公言し、それを美談として語ったことに対し、国内外から批判が殺到した。長時間労働を当然視する姿勢が、日本の労働環境を悪化させる原因になっているとの指摘も根強い。

こうした状況下での残業規制緩和は、政府のメッセージとしての一貫性を欠く。人手不足を理由に労働時間を増やすのではなく、生産性向上や業務のデジタル化こそが本来追求されるべき方向性ではないだろうか。

国際比較から見る日本の例外性

国際的な視点から見ると、日本の残業規制の緩和傾向は極めて異例だ。欧州連合(EU)では、労働時間指令により、原則として週48時間(1日あたり約9.6時間)を超える労働が禁止されている。フランスでは労働時間の短縮と生産性向上の両立を図る「週35時間労働制」の根幹は維持されている。

一方、日本の現状はどうか。人手不足を理由に規制を緩めるというアプローチは、低生産性の職場を温存し、構造的な賃金の停滞を招く可能性がある。労働者が長時間働かざるを得ない環境を放置すれば、結果として労働市場からの退出(いわゆる「働き手の減少」)を加速させるだけだ。

企業と労働者にとっての「これから」

「残業上限45時間の一律指導廃止」は、何を意味するのか。

まず企業にとっては、一見すると裁量が広がるように映る。しかし、過去の過労死事件や大企業の労務不祥事を踏まえれば、コンプライアンス意識の低い企業ほど、リスクが高まることになる。健康診断の結果や労働時間のデータ管理を甘く見れば、訴訟リスクに晒される可能性もある。

労働者にとっては、より一層の自己防衛が必要となる。会社の指示だからといって、無理な長時間労働を受け入れるのではなく、自分自身の健康を最優先する姿勢が求められる。もし会社が月80時間を超えるような残業を強いようとするなら、それは明確な「過労死ライン」超えであり、すぐに労働組合や外部の相談窓口に連絡すべきだ。

「働き方改革」はここで終わるのか

今回の決定は、2019年の法改正以降続いてきた「働き方改革」の流れに、明確なブレーキをかけるものと言える。政府が成長を重視するあまり、長時間労働の是正という長年の課題を棚上げにしようとしている懸念は拭えない。

しかし、労働者の健康を守るための措置は、決して「成長の阻害要因」ではない。むしろ、健康で意欲的な労働者が増えることで、イノベーションは生まれ、持続可能な成長が実現する。規制の緩和ではなく、生産性の向上とワークライフバランスの真の実現こそが、日本の労働市場が今、最も必要としているものではないだろうか。今後の厚労省の具体的な運用と、現場の実態を注視していく必要がある。

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